水平の家








 この先に、人の住むところがあるのだろうか・・、少しそんな気になりかけた頃、山あいの集落が現れる。
 ここに、水平の家がある。

 この家は、家に見えない。集落の外形をなぞるようなかたちをしている。全部で6件からなる集落。
 昔、石垣で造成してできたかたち。敷地は、その北の端、最も目立つ場所にあり、集落の顔をつくる。







 集落を遠いところから眺める「目付け」の位置がある。そこからの風景をかたちづくること。
 昔からの石垣をそのまま立ち上げたかたち、そこに刻んだ水平スリット。驚くほど集落の風景になじむ。







 なかに入ると、スリットが切り取る風景の展望と、開放感に驚く。
 水平スリットが家をぐるっと廻っているから、どこを見ても風景がある。
 上下に重なりあった水平スリットは合計15本、のべ115m。



 「みる」

 水平の家には、変化する風景がある。
 水平スリットは、同じ高さでも、目線の位置を動かすことによって、まったく違った風景がみえる。
 立つと、向こうの川と集落がみえる、座ると、山がみえる、寝転ぶと、空がみえる。
 スリットから覗いたその先にまたスリットがみえる。視線の連続によって、様々に切り取られた風景を発見する。
 風景とは、みるという働きかけによって生まれるものだということに気づく。
 スリットは、開口がぎゅっと凝縮されていることによって、みえる風景を強調する。「みる」というあそび。







 もしスリットの向こうに鳥が見えたら、その行く手を追って首を動かし、私たちは風景を追っていく。
 家は風景に包まれている。スリットがまわる。ぐるりと見渡す展望のなかを鳥が飛んでいく。







 北のスリットには、奥の集落が見える。どこまでもつづく山の連なり、そのなかへ消えていく田のあぜ道、人の行き来。
 東のスリットには、川が見える。鮎捕りにはしゃぐこどもたち、樹齢400年の大杉の下に神社がひそむ。
 南の障子のスリットには、つきあい道。集落の屋根の重なり、ケヤキの巨木、その彼方に山。
 西のスリットには、森と、この集落を守る祠(ほこら)が見える。


 「つきあい道」

 「つきあい道」というものがある。それは、自分の敷地だが集落のだれもが自由に通っていい、という道。
 つきあい道で、集落の人が犬の散歩をしたり、立ち話をしたり、近道をしたりする。家主の心持ちは、つきあい道を大切にし ながら、視線は遮り、閉鎖的にならずに、プライバシーは守りたい。
 石垣を延長して擁壁をつくる。それは、圧迫感のない位置で巡って、つきあい道をかたちづくる。
 その巾を一旦せばめた擁壁ごしに、つきあい道は庭へあがっていく。擁壁は除々に低くなって地面に消える。
 視界がぱっと 開く。その内側には、170㎝の石の塀が歩く人の視線をさえぎる。
 120㎝の石の塀、ここが玄関だ。
 そして、なかが見えないようにスリットを入れた障子が庭に面している。
 それらすべてが「襞(ひだ)」のようになって、「つきあい道」と生活の場にゆるやかに境界をつくる。










 建築データ:「水平の家」

  • 所在地:滋賀県
  • 建築面積:311.50平方メートル
  • 延床面積:311.50平方メートル
  • 構造:鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造
  • 規模:地上1階
  • 用途:住宅
  • 構造設計:佐々木仁
  • 施工:丸正
  • 写真:鳥村鋼一




Comments