西八條邸彩丹





 敷地は、京都、西大路八条。大通りから幅4メートルの小路を入った、人目につかぬ場所にある。
 この建築は、11戸の集合住宅である。しかし、分節された集合住宅の親しみのなさを徹底的に隠す。
 1つの大きな家として見せる。




 建築を一面の壁で覆い、穴をあける。穴の形は、幹や葉である。根である。球根である。樹にかかる雲である。
 自然を模写した具象的な形が、空洞となって、光になって、木漏れ日になる。




 この木漏れ日窓は、次のように生まれた。
 集合住宅のバルコニーを消し—、1つの部屋のバルコニーをなくし—、1つの部屋の階高を高くし—、住居を地盤面より1メートル高くし—、建築の入口と床レベルをずらし—、壁の中央を曲面とし—、建築を中央で凹凸にし—、その曲がった壁面に曲線のスリットをうねるようにあけ—、穴の形の鋭角さや起伏をスリットのうねりに合わせ—、根からうねり上がる植物の形を1つとする。




 曲面部を走る壁に、曲線の穴をあけるのだから、その開口部は物理的に“ねじれる”。
 このねじれが、植物的な、自然の、(有機的な、自由の)形となる。
 中央、根の部分からなかへ入る。そこは京都らしい通り庭となっている。通り庭とは、道から道へ、土地から別の土地へ、貫かれた小道のことである。
 この通り庭を抜けると、この建築の施主の町家の庭とつながっている。この施主は、自らこの集合住宅を管理している。毎日掃除をし、入口に花を活け、水を道に打ち、老後を楽しんでいる。




 この土地は、平家物語に書かれた「西八條殿」の跡地である。12世紀の、ある一門の栄華と没落の舞台がこの地にあった、そういう遥かな、悲しくなるような遠い記憶を、この地の人々は今も大切に語り継いでいる。
 このような土地に建てるマンションは、マンションに見えてはいけない、そういう理念が私たちに芽生え、“樹の不滅性”を、私たちに思いおこさせたのかもしれない。



 それゆえにか、私たちが求めたのは、なんとなく樹に見えるという弱々しいものではなく、強烈で動的な形であっ
た。




 敷地の大きさは、16×19メートル。
 この建築は、閑静だが立て込んだ住宅地につくる、低層集合住宅の1つの解答となっている。




 彩丹という名は、どんな意味か。丹とは朱の色であり、仄(ほの)赤い御影石の彩りでもある。
 丹朱は変色しない。神聖な色で、聖化のため器や弓矢に塗ったという。







 建築データ:「西八條邸彩丹」

  • 所在地:京都府京都市
  • 敷地面積:301.82平方メートル
  • 建築面積:186.39平方メートル
  • 延床面積:557.70平方メートル
  • 構造:鉄筋コンクリート造
  • 規模:地上3階
  • 用途:集合住宅
  • 構造設計:北條建築構造研究所
  • 施工:ミノベ建設
  • 写真:鳥村鋼一




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