Light Thread -光の通路



 2008年北京オリンピックのレスリング競技場の国際指名設計競技案である。
 会期中は、1万人収容のレスリング場であり、会期後は、4000席の仮設席を取り除いて、3つのアリーナとプール を含む6000席の複合体育館として改修する。
 敷地は、中国農業大学のキャンパス内にあり、会期後、この建築は、中国農業大学が所有する。
 この条件から、オリンピック競技(レスリング)場としての特徴と、中国農業大学の建築としての特徴の、双方を満足できる考え方を模索した。

 光の通り道
 この建築は「光の通り道」によって構築されている。
 「光の通り道」は多様な生命の躍動感を象徴する。その大胆な発想は、建築の採光と発光の効果において、また、その構築の手法において、今だかつてだれもみたことのない新しい建築造形を生む。「光の通り道」は、コンクリートの矩形の立体に3次元的なカットをして生まれる。この方法は、極めて合理的であり、美しく、シンプル であり、丈夫であり、経済的な建築を生む。

 森
 この建築は森である。
 この建築の「光の通り道」は建築全体を覆う。自然、草が建物全体を覆い、たくさんの花や実を咲かせているかのように、その複雑さは、植物の生命感の豊かさであり、そこからもれる光は、限りなく豊かである。森のなかの光と 同じく、この建築は、豊饒である。





 イマジネーションを呼び起こす造形
 「光の通り道」は、抽象化された造形であり、様々なイマジネーションを呼び起こす。
 植物の生命感を表現すると同時に、スポーツ選手の身体の動きも表現するこの造形は、オリンピック施設としての象徴性と、中国農業大学の中心施設としての象徴性を同時に実現する。

 【曲線スリットのイマジネーション1】

 森のイマジネーション

 「光の通り道」は、春夏秋冬の豊かな自然の営みを表現する。
 春の新芽、新緑、水の流れ、木にとまる鳥、蝶。
 夏の果実、茂る木々、はためく葉、夕暮れの雲、妖精、大きな房、羊歯。
 秋の紅葉、稲、マメ、赤や黄の色調、濃淡、収穫、畠、落ち葉、茸。
 冬の木立、つる草、浜辺、雨の夜、雪、霞、霧、蒸気、星、結晶、球根、根。

 【曲線スリットのイマジネーション2】

 植物のイマジネーション

 この建築は天へ飛び出す管である。
 この建築は大地から湧き出た力、根、その造形である。大地から天へのびてゆく植物の躍動する力、天へのびあがる管、躍動する中国、大地から天へのびる中国。それは、ゆるぎない基礎を持ちながら、大地に根ざして成長してゆく根の、迫力、芽吹きの勢い、天へ向かってのびる植物ののびやかさをその造形の原型に持っている。





 【曲線スリットのイマジネーション3】

 スポーツのイマジネーション

 「光の通り道」は、レスリングの競技の躍動感を表現する。さらに「光の通り道」は、レスリングの他、オリンピック の様々なスポーツを表現する。
 ダンスのステップ、陸上競技選手の脚力、水泳、バトミントン、バレー、バスケット、テニス、卓球などのスイング、 ジャンプ、飛翔、筋力、伸縮、武道のしなやかさ、これら、スポーツの多様な躍動のデッサンである。

 【曲線スリットのイマジネーション4】

 レスリングのイマジネーション

 「光の通り道」はレスリングの技、その人体の動きをその原型に持っている。
 この建築は、オリンピックのレスリング場としての記念性を創出するために、レスリングの技に見られる人体の動き、腕、脚、身体の、からみあい、もつれあいを抽象化している。構造壁として成立する、この「光の通り道」のある長大な壁の迫力は、オリンピックのレスリング場を記念する。




 光の壁

 この光の壁は構造壁である。
 この建築を覆う動的な「光の通り道」は、壁の厚み400mmに納まるフラット・バー形状の綱を、裂け目を糸で縫うように、非常に安定した三角形のラチス状に綴じる。こうして、「光の通り道」は、その方向性に制約のない自由を確保しながら、壁構造として成立し、そのカットの多様な表現を、巨大な建築的スケールで展開することが可能となる。この構造システムの特殊性は世界に類を見ない。

 発光する構造体

 この建築を覆う「光の通り道」は光の管である。
 この建築の「光の通り道」は、日中は木漏れ日のような採光を内部空間に入れ、夜は最先端のライト・アップ・システムによって発光する。植物のように、また、レスリングの人体の躍動のように見える光の管は、発光する構造体、光のワイヤー・フレームとして輝く。





 【構造システム1】

 立体効果をもった「Thin-walled spatial structure」

 この建築は、「Thin-walled spatial structure」である。
 建築全体を縦横無尽に交錯する「光の通り道」によって、一見バラバラに刻まれているかのようにみえる外壁は、ラチスによって綴られており、構造的に一体である。
 屋根は、壁とともにコンクリートでできているため、「光の通り道」がとぎれることなく、建築全体をくまなく覆うことができ、「光の通り道」の3次元的展開が可能になっている。
 この建築は、4面の外壁と地面、屋根面が強固な立体としての特性(立体効果)をもつ。この効果によって、構造体は全体に、薄く、軽く、リーズナブルなものによって実現される。

 立体効果を利用した「Semi-rigid parabolic truss」 

 この建築は、最大スパン144×90Mの大空間であり、屋根を支持する垂直材は、「Thin-walled spatial stru cture」の壁のみである。90Mの屋根のスパンを合理的、経済的に実現するために、4周の壁の剛性を利用した 「Semi-rigid parabolic truss」を使用する。
 「Semi-rigid parabolic truss」は、建物の水平剛性を担うコンクリート版と屋根荷重を支持するparabolic tr ussで構成されている。

 【構造システム2】

 「光の通り道」の構造

 「光の通り道」は、壁の厚み400mmに納まるフラット・バー形状の鋼を、三角形のラチス状に綴じる。ラチス材をコンクリートにアンカーするにあたって、アンカー・プレートによって、「光の通り道」の壁小口面をふさぎ、それを型枠として利用することによって、施工性の向上を図る。

 迅速な施工が可能な構造計画

 この建築は、迅速な施工を考慮した計画である。
 「Thin-walled spatial structure」の壁と内部の躯体を現場打ちのRC造とし、屋根の梁を鉄骨造とした計画である。つまり、現場打ちのRCの施工中に、鉄骨やサッシ等の製作図の作図や、工場での製作を行い、施工の工期を無駄なく合理的に使用し、オリンピックを万全の体制で迎えることを可能とする。

 立体効果による経済性

 大スパン構造を考える場合、各構造要素の立体的効果を活用することは経済的である。
 本構造においても、各方向へ有効に配置された面(屋根、壁)の強大な面内剛性を利用し、立体効果を活用することで、経済性を向上している。






 矩形の立体

 この建築は、コンパクトな矩形の立体でありながら、立体全体を覆う「光の通り道」によって、全く新しいランドスケ−プを実現している。
 144m×90m×19mの矩形の立体に曲線のカットを施したこの建築は、遠景において、キャンパスの周辺建物と調和し、近景において、圧倒的な象徴性を実現する。

 「光の通り道」がつくる新しい外観

 この建築は、曲線のカットが矩形の立体を縦横無尽に交錯する抽象的な造形である。
 その外観は、ダイナミックで独創的、奇想天外ともいえるほど、力強い。
 「光の通り道」のしなやかな造形は、大地から天空へのびてゆく植物の生命感、スポーツの躍動感、オリンピックのエネルギー、これらからイメージされる今後の中国のダイナミズム、成長と発展、躍進を象徴する、力強い造形である。





 4つのフィールドの体育館

 この建築は4+4の体育館である。
 この建築は4つのアリーナと4つのホールを持つ。「メインアリーナ、サブアリーナ、プール、武道場」の4つのアリーナ。(ダンス・ルーム、トレーニング・ルーム、ミュージック・ルーム、会議室)の4つのホール。オリンピック・パラリンピック開催中の諸機能の合理的な連携を無駄なく経済的に実現し、かつ、中国農業大学が誇る文化体育館として、その息の長い施設利用を実現するため、プランはユニヴァーサルな矩形としている。加えて、ほとんどすべてのアリーナ、ホールは、1階レベルに設置しており、屋外運動場との一体利用を可能にしている。






 ドラマチックな内部空間

 「光の通り道」は、延び延びと柔らかい光が交差しながら差し込むドラマチックな空間を形作る。
 この建築の内部空間は、木漏れ日振りそそぐ森のように、豊饒である。




 コンバージョン

 この建築は、単純な矩形に基づいて構成されている。それゆえに、内部空間のコンバージョンが容易であり、すなわち、ユニバーサルである。
 そのシンプルな矩形の平面計画は、レスリング・コートはもちろん、プール、サブ・アリーナの矩形コートの特性と合っている。すなわち、その平面計画には、無駄がなく、オリンピック開催中、開催後のコンバージョンが容易であり、さらに、オリンピック後の総合体育館としての多様な施設利用を、機能的に、かつ、無駄なく実現する。




 矩形の立体のなかの三次元的な造形

 この建築は、「光の通り道」を、壁から屋根へ、屋根から壁へ、壁からまた次の壁へと、縦横無尽に展開している ことにおいて独創的な建築である。この建築は、従来の単なる箱型建築とは全く異なった新しい空間性を実現している。

 5つのファサード

 敷地は、中国農業大学の東キャンパスの中央にある。東キャンパスは、周辺部に高層建築、中央部に低層建築を建設する計画となっている。この建築は、5つの方向/「東西南北と上部」から「見られる」建築である。
 したがって、この建築は東西南北と屋根に美しい「光の通り道」のファサード(顔)をもっている。

 リーフスケープ

 この建築の前面には、キャンパスの新たな中央広場となる「リーフ・プラザ」をつくる。この体育館の敷地は、高密度なキャンパス内にあり、周辺施設と体育館の連続性をつくるのは極めて重要である。これを可能とする設計手法が、本計画の「リーフスケープ」である。
 「リーフスケープ」は、建築の壁、屋根と同じく、抽象的なラインのパターンをモチーフとしたランドスケープである。「リーフスケープ」は、大きな円弧を描くパターンによって形作られている。このパターンは、大地に舞い降りた「葉」である。
 この建築のランドスケ−プは、森を育む土、根、水、すなわち大地であり、その大地に舞いおりた「葉」の抽象化である。「葉」のランドスケ−プは東キャンパスの中心となる。中国農業大学のキャンパス計画は、周辺部に高層建築を集中させる考えであるから、この建築とその屋根、及びランドスケ−プは高層棟からよく見える。建築のユニヴァ−サルな矩型フォルムのなかに混在する森のイメージとともに、イチョウ、カエデ、シラカバ、カシワなどの木立が美しい東キャンパスに舞い降りた「リーフスケ−プ」の美しさは、小月川の水面のきらめきと響きあう。

 建築データ:「Light Thread -光の通路-」

  • 2008年北京オリンピックレスリング競技場国際指名設計競技 2等入賞
  • 延床面積:30,000平方メートル
  • 規模:地上3階
※ 川口衞建築構造設計事務所と共同設計





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