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テラスハウス

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滋賀県 / 日本
2006

テラスハウス - ひび割れた筒

敷地と規模

 滋賀県。3階建て。1層に3部屋、計9部屋。賃貸用集合住宅。この敷地は、一般的な建売住宅を売る、分譲地のなかにある。そのいちばん北の端にある。北に墓地がある。墓地が見えていては、建売住宅が売れないだろうと、事業者は考えた。そこで、城壁のような、目隠しとなるような集合住宅を計画したのだった。

 

建築

この建築は、内部に筒をつくり、そこに光の交叉をつくっている。

 建築の中央左に、3階分の高さをもつ筒。筒は10本のスリットが斜めに飛び交う。壁を切り刻む。斜線の交叉でできる三角形の面を大きく剥がし、それらが壁と天井を這い回り、壁・天井・壁と3面を通ったり、壁・壁の2面を通ったりする。

1本のスリットは → 大きい開口に吸収されて一旦、消え → 再び、現れる。

1本のスリットは → 大きい開口に吸収されて、二股に別れ → 再び、現れる。

10本のスリットの単純さが、“交叉“、“消滅“、“現れ“ を繰返して複雑になる。

 

筒をつくった背景

 

ひび割れた筒は、一体なにか。

この建築に住む人は、この筒を通って、家へ帰る。外へ出る。

普通、建築の内外を隔てるものは、1つの扉か、戸口、自動ドア、あるいは回転ドアだ。それらを通り抜ける時間 

は、数秒。数秒で、人は思いを改めて町へ出る。家へ帰る。この切り換えを人間はくりかえす。ドアの数秒は、人が気持ちを切り換えるのに充分か?

特にマンションは、居室の並ぶ長い廊下を歩き、EVの箱が上がり下がり、エントランスから町に出る。どこからが外で、どこからが領地だろうか、その区別は心もとない。鍵やセキュリティーは、その意味を埋めることはできない。ただ退屈な時間である。

人は、この切り換えの時間の豊穣さを求めている。

そこで、私たちはこの筒をつくった。必ず、人は、この筒を通って、気持ちを切り換える。その儀式性が、この筒にある。それは、浄化作用を持つ場所である。

浄化という意味を知るために、次の話をしよう。

…昔、日本では、家の戸口に、円錐形に小さく塩を盛った。盛り塩という。山のミニチュアである。このミニチュアは 神の山を象(かたど)っており、それを置くと、戸口を浄化すると考えたのだ。

例えば、相撲でも土俵に塩を捲く。そのように、塩が、場所を清める力を持つものであり、それを山の形にして家戸口に置くことが、余計に邪霊の力を弱める。

本来、ひとにぎりの塩の山を戸口に置くほど、人は、自己の内外を分かつ場所を大事にするものである。この筒がそれをする。

 

筒の意味

 

ひび割れた筒は、入った途端に、ここが、隔絶されたところだとわかる。光の“交叉“と“消滅“と“あらわれ“が、別世界の胃袋の中にいるようだ。その驚きをもって人を浄める。

交叉が、現実を超えるイメージである。何にも似ていない。この筒が、現実に抵抗しているその様が、新鮮だ。

筒の構想は、現代人に必要だと思われる1つの順序を示す。戸口を出、〈ここを通り〉、外へ出る。

そこを通る時に人におこる…、光の交叉に人は気づく。…帰って来た。ざわめきが消えた。祓われる。黙する。

虚だ。無心になる。

いかなる花も入れない壷。いかなる飲み物も入れない瓶。そのなかに入る。なにも自分をあおるものはない光のなかに。

Eth_plan_v12_R.jpg

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テラスハウス

構造:鉄筋コンクリート造

規模:地上3階

用途:共同住宅

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