水平の家

 
滋賀 / 日本
2007

水平の家

この先に、人の住むところがあるのだろうか・・、少しそんな気になりかけた頃、山あいの集落が現れる。

ここに、水平の家がある。

 

この家は、家に見えない。集落の外形をなぞるようなかたちをしている。全部で6件からなる集落。

昔、石垣で造成してできたかたち。敷地は、その北の端、最も目立つ場所にあり、集落の顔をつくる。

集落を遠いところから眺める「目付け」の位置がある。そこからの風景をかたちづくること。

昔からの石垣をそのまま立ち上げたかたち、そこに刻んだ水平スリット。驚くほど集落の風景になじむ。

なかに入ると、スリットが切り取る風景の展望と、開放感に驚く。

水平スリットが家をぐるっと廻っているから、どこを見ても風景がある。

上下に重なりあった水平スリットは合計15本、のべ115m。

「みる」

 

水平の家には、変化する風景がある。

水平スリットは、同じ高さでも、目線の位置を動かすことによって、まったく違った風景がみえる。

立つと、向こうの川と集落がみえる、座ると、山がみえる、寝転ぶと、空がみえる。

スリットから覗いたその先にまたスリットがみえる。視線の連続によって、様々に切り取られた風景を発見する。

風景とは、みるという働きかけによって生まれるものだということに気づく。

スリットは、開口がぎゅっと凝縮されていることによって、みえる風景を強調する。「みる」というあそび。

もしスリットの向こうに鳥が見えたら、その行く手を追って首を動かし、私たちは風景を追っていく。

家は風景に包まれている。スリットがまわる。ぐるりと見渡す展望のなかを鳥が飛んでいく。

北のスリットには、奥の集落が見える。どこまでもつづく山の連なり、そのなかへ消えていく田のあぜ道、人の行き来。

東のスリットには、川が見える。鮎捕りにはしゃぐこどもたち、樹齢400年の大杉の下に神社がひそむ。

南の障子のスリットには、つきあい道。集落の屋根の重なり、ケヤキの巨木、その彼方に山。

西のスリットには、森と、この集落を守る祠(ほこら)が見える。

「つきあい道」

 

「つきあい道」というものがある。それは、自分の敷地だが集落のだれもが自由に通っていい、という道。

 つきあい道で、集落の人が犬の散歩をしたり、立ち話をしたり、近道をしたりする。家主の心持ちは、つきあい道を大切にしながら、視線は遮り、閉鎖的にならずに、プライバシーは守りたい。

石垣を延長して擁壁をつくる。それは、圧迫感のない位置で巡って、つきあい道をかたちづくる。

その巾を一旦せばめた擁壁ごしに、つきあい道は庭へあがっていく。擁壁は除々に低くなって地面に消える。

視界がぱっと開く。その内側には、170㎝の石の塀が歩く人の視線をさえぎる。

120㎝の石の塀、ここが玄関だ。

そして、なかが見えないようにスリットを入れた障子が庭に面している。

それらすべてが「襞(ひだ)」のようになって、「つきあい道」と生活の場にゆるやかに境界をつくる。

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水平の家

所在地:滋賀県

建築面積:311.50平方メートル

延床面積:311.50平方メートル

構造:鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造

規模:地上1階

用途:住宅

構造設計:佐々木仁

施工:丸正

写真:鳥村鋼一

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有限会社イースタン建築設計事務所