KANOKOビル

 この建築は、例えば、次のように見える。

 

・鹿が水を飲むような(KANOKOは「鹿の子」という意味だ)

・着物の襟もとのような

・折り紙のような

・巨大な指が大地を指さしているような

・不整形の形

 

 この建築は外観の2面を見ることができる。駅を降りたら初めに見える。いろんな形の見え方、ただの四角くではない形、おもしろい形を、その2面を使ってデザインしている。スッキリ。ズバッと。潔く。

 

 京都市伏見区の墨染町という町にある。鉄骨造3階建て。1階に薬局。2階に保育所。3階に施主のご両親が住む。敷地の北側の通りは、この町のメイン・ストリート。敷地の前に橋がある。橋から5メートル先にこの町の駅がある。目の前に運河が通っている。鴨川運河と言う。これは明治時代に建設された琵琶湖疏水(水路)の分流で、自然の川ではない。この鴨川運河は、1世紀以上前に遡る、京都の1つの夢の痕だ。それについては後に記述している。

 

 施主は、この地に生まれた。両親がこの土地で野菜屋を営んでいた。施主は若く、東京でバリバリ働いている。この地に残っているご両親は高齢のため、野菜屋を閉めることにした。家は老朽化していた。私たちの事務所もこの運河沿いにある。近所だった。かつてこの同じメイン・ストリートに「スリット・コート」という建築を建設した。このKanoko buildingから西へ下る15メートルのところにある。こんな近所に変わった設計をする建築家がいる!施主は私たちに設計を依頼した。施主はこの町はもっと変るべきだと、考えていた。もっと美しくなるべきだと。施主が考えていたプログクラムは、はっきりしていた。1階、2階に店舗を誘致する。3階にご両親が住む。いずれはこの地に戻ってくるかもしれぬ。だから、自分の事務所をつくるかもしれぬ。

 

 この土地は、駅からの眺めがよい。目の前に運河が流れている。視界が広い。私たちが提案したデザインの中から、施主はメイン・ストリートと運河に対して不整形な形を選んだ。この不整形さが美しいと。

 

 運河に対して、1階と2階は開いている。ガラス張り。店舗だから。3階は閉じている。必要なところに小さな窓をもうける。全体の形は、北側をずばっと掻き切った。2階、3階部は、そこがテラスになっている。3階建てのテナントビルのボリュームを、1つの形のなかにおさめつつ、1階、2階の店舗が自由にその活動と光をこの町へ放つ。1階の薬局では、母親とこどもたちが、斜めのボリュームが地面にふれるちょうどその場所に、キッズ・ルームがつくられており、ストリートのすぐそばで遊んでいる。2階では、保育所のこどもたちが遊んでいる姿が見える。夕刻になると、どちらの階にも光が灯り、暖かさを町に表す。夜になると、3階の小さな窓の明かりがリズムよく華やぐ。

 

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鴨川運河について。

 

 明治時代、日本の政府は京都にあったが、明治維新によって、東京へ遷都した。このため、京都は寂れた。京都の人間は、水道用水の他、疏水の水力で新しい工場を興し,舟で物資の行き来を盛んにしようと計画した。当時,日本の重大な工事はすべて外国人技師の設計監督に委ねていた時代にあって、すべて日本人の手によって行った我が国最初の大土木事業であった。この敷地から南へ1キロほど下ったところに今も水力発電所がある。水力発電は工業動力に振り向けられ,紡績,伸銅,機械,タバコ等の新しい産業の振興に絶大な能力を発揮し,京都市発展の一大原動力となった。

 

KANOKOビルは、その運河を渡る橋の横で水を飲む鹿の子だ。とのイメージから、施主が「鹿の子」と名づけた。

 

 

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建築データ:「KANOKOビル」

所在地:京都市伏見区

竣工:2018

敷地面積:149㎡

延床面積:282㎡

構造設計:村田龍馬設計所

写真:鳥村鋼一

施工:創美建築企画

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